Tobias Kappel
- Yuuto Iuchi
- 1 日前
- 読了時間: 5分
ベルリンを拠点に活動するアーティスト、Tobias Kappelは、アナログとデジタルのあいだに広がる表現の領域を見つけ、視点から再解釈している。
グラフィティをルーツに持ち、写真を通して進化を遂げてきた彼の作品は、「視覚」が時間とともにどのように変化していくのかという深い好奇心を反映している。
昨年は東京で個展を開催し、彼は来年に向けて新たなプロジェクトを準備している。このインタビューでは、彼のアーティストとしてのルーツに迫る。

あなたのこれまでの経歴と、アーティストとして活動を始めるまでの道のりを教えてください
私はもともとグラフィティが好きで、10代の頃はよくデッサンのクラスに通っていました。その後、ドイツの美術大学でコミュニケーションデザインを学び、写真を専攻していました。卒業後にはニューヨークでPari Dukovic Studioというスタジオのインターンシップを経験しました。
しかしドイツに戻ったとき、少し迷いを感じていました。ニューヨークでの経験を通じて「写真を職業にしたくない」という思いに気づいた一方で、「自分はベルリンという街が本当に好きなんだ」ということも実感したんです。そこでベルリンに移り、アートマガジンやアーティストのアーカイブ管理の仕事をしながら、自分自身の道を模索し続けました。写真については、それまで学んできたことを自問自答する時間でもありました。
その後、知人の紹介でRobert Morat Galerieで働くことになり、現在も同ギャラリーでリードディレクターとして働いています。同時に、自身のアート活動にも継続的に取り組んでいます。

あなたの作品づくりやスタイルにおいて、特に大切にしていることは何ですか?
まだ自分のスタイルを完全に見つけたとは言えません。ただ制作の過程で最も大切にしているのはオープンであること、そして好奇心を持ち続けることです。私は、ひとつのイメージや作品が「完成」や「固定された形」である必要はないと考えています。むしろ、カテゴライズされることさえ超えていけるような存在であっていいと思っています。
私の制作の多くは、“in-between”という概念に基づいています。私はアナログからデジタルへと移り変わる時代の中で育ったので、すべてが常に変化し続けている感覚が当たり前にありました。翻訳や再解釈を通じて「意味」がどのように変化していくのか、そしてテクノロジーがそのプロセスにどう関わっているのか強い関心を持っています。

現在の拠点であるベルリンについて教えてください。ベルリンのどんなところに魅力やインスピレーションを感じていますか?また、なぜこの街で創作活動を続けているのでしょうか?
僕はもともとベルリン郊外のポツダム出身なので、この街のことは昔からよく知っています。子どもの頃は、正直ベルリンに特別な興味はありませんでした。唯一惹かれていたのはグラフィティくらいで、どちらかというと他の場所を見てみたいという思いのほうが強かったです。
転機になったのは、ある夏に友人と過ごした時間でした。彼が僕をいくつかの場所に連れて行ってくれて、そこで出会った人々や空気感が、今の僕の創作にも通じる“ベルリンの魅力”を感じさせてくれました。
もちろん、あの頃からベルリンは大きく変わりました。生活費の高騰や政治的な分断など、時々“現実離れしている”ように感じることもあります。かつてはこの街には、物理的にも精神的にも多くの「余白」がありました。それはおそらく、戦後の歴史に根ざしたものだったと思います。今でもベルリンは僕にとってホームであり、大切な仲間たちがいる場所ですが、かつてこの街を象徴していた自由の感覚は少しずつ形を変えてきたように感じます。

昨年は東京で個展を開催されましたが、そのきっかけについて教えてください。
2021年、僕は自分の創作活動の幅を広げるために、《Open Ended Photography》という展覧会を企画・参加しました。これは、ベルリンを拠点とするアーティストたちを集め、より自由で独立した視点から“イメージを見る”という試みとして、Robert Morat Galerieの夏季休暇中に開催されたものです。
その展示を、偶然ベルリンを訪れていたYukitomo Hamasakiさんが見に来てくれたんです。彼は僕の作品を気に入ってくれて、後にInstagramでフォローしてくれました。そして2023年、彼が東京でLOWW Galleryを立ち上げた際に改めて連絡をくれました。
振り返ってみると、この展覧会がきっかけでLOWWとの繋がりが生まれ、Yukitomoさんとの友情が築かれ、最終的に東京でintheinという個展を開催する機会につながったことに、とても感謝しています。
これまでにドイツ、日本以外での展示経験はありますか?
多くはありませんが、以前、カナダ・トロントで開催されたContact Photography Festivalに参加したことがあります。そして来年には、ポーランドのgallery 302で展示を行う予定があります。
それ以外にも、新しい機会やコラボレーションには常にオープンなので、ぜひ気軽に声をかけてほしいです。
一番のお気に入り、もしくは思い入れのある作品について教えてください。また、その理由についても聞かせてください。
難しい質問ですが、「gyakusou v.2_2024」が特に思い入れがあります。これは、東京のLOWWでの展示のために特別に制作した作品です。作品のインスピレーションは、高橋潤(Gyakusou)によるNikeのカプセルコレクションのジャケットと、日本の書道にあります。ちなみに「gyakusou」とは日本語で、これは、私自身の「イメージを再解釈する」アプローチにも通じるディテールです。
週に一度のランニングは私にとってリフレッシュの時間で、新しいアイデアのきっかけにもなります。この作品は、鏡面仕上げで、アナログとデジタルを組み合わせる私の制作手法をよく表しています。





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